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大阪高等裁判所 昭和63年(行コ)58号 判決

大阪府豊中市北緑ケ丘一丁目二番六号北緑ケ丘団地四〇六号

控訴人

岡山邦人

右訴訟代理人弁護士

関戸一考

大阪市北区南扇町七-一三

被控訴人

北税務署長

河上他代

右指定代理人

佐藤明

田中皖洋

森口節生

安田信二

芝亘

右当事者間の行政処分取消請求控訴事件について、当裁判所は、平成元年一一月三〇日に終結した口頭弁論に基づき、次の通り判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人が、控訴人に対し、昭和五七年三月三日付で控訴人の昭和五三年分ないし昭和五五年分の所得税についてした各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文と同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次に附加する外は、原判決の事実摘示と同一(但し、原判決七枚目裏一一行目の「原価率等」を「平均原価率等」と改める。)であるから、これを引用する。

1  控訴人の当審における主張

「喫茶・スナック」という原価率の異なる二つの営業形態を持つ業者については、「喫茶」の部の売上金は「コーヒー豆仕入金額」を推計の基礎にすべきものであるのに、本件においては「酒類仕入金額」のみを基礎として控訴人の全体の売上金を推計しているのであつて、本訴推計には全く合理性がない。このことは、「喫茶」の部の売上金は、被控訴人のなした推計売上金から控訴人が原審で主張している「スナック」営業の売上金を差引いて計算すると、一七〇〇万円ないし一八〇〇万円近くにもなるが、控訴人の店にもし「喫茶」営業による売上げがあつたとしても、店の立地条件等から一日せいぜい七〇〇〇円ないし八〇〇〇円程度で、年間約二四〇万円の売上げにしかならないことに照らしても明らかである。

2  右主張に対する被控訴人の反論

「喫茶・スナック」営業による売上金の推計については、一般的にいえば「酒類仕入金額」のみでなく、すべての仕入金額(売上原価)を基礎に売上金額を推計する方がより合理的であることは否定しないが、推計課税は、不誠実な納税者との均衡を失することを避けるところに趣旨が存するところ、被控訴人が把握しえた控訴人の仕入金額は「酒類仕入金額」のみであるから、それを基礎に控訴人の全体の仕入金額(売上原価)を算出して行つた本訴推計には不合理な点はない。

三  証拠関係は、原審及び当審訴訟記録中の各書証目録・証人等目録記載の通りであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、被控訴人のなした本件各処分は適法であり、その取消を求める控訴人の本訴請求は理由がないものと考える。

その理由は、次の通り訂正、附加する外は、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

なお、右の認定判断に反する控訴人本人の当審における供述は、原判決挙示の各証拠及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一四号証に照らして信用することが出来ず、他の当審証拠中には右の認定判断を左右するに足るものはない。

1  原判決の訂正

原判決二一枚目裏四行目から五行目にかけての「連絡せん」及び同一〇行目と同二五枚目表一二行目の各「連絡せん」いずれも「連絡箋」と、同二一枚目裏一〇行目の「原告は」を「原告が」と、同二三枚目表九行目から一〇行目にかけての「確定申告」を「確定申告書」と、それぞれ改める。

2  控訴人の当審主張について

控訴人は、「コーヒー豆仕入金額」を考慮せず、「酒類仕入金額」のみを基礎として控訴人の全体の売上金を算定した本訴推計は合理性を欠く旨主張する。

しかしながら、控訴人は現在に至るも係争各年における自己の「コーヒー豆仕入金額」を明らかにせず、原審証人藪内利明、同鈴木慶昭の各証言によると、被控訴人の調査によつてもそれを把握することが出来なかつたことが認められるから、本件においては「コーヒー豆仕入金額」を売上金推計の基礎とすることは出来ないので、「酒類仕入金額」のみを基礎とした本訴推計が合理性を欠くとはいえない。

また、控訴人は、本訴推計による売上金額から控訴人が原審で主張した「スナック」営業による売上金を差し引いて計算すると、「喫茶」営業による年間売上金額は一七〇〇万円から一八〇〇万円近くにもなり実態と全くかけはなれたものになる旨主張するが、控訴人主張の「スナック営業」の売上金額は原判決説示の通りこれを認めることが出来ないので、右の主張は前提を欠き失当である。

なお、当審における控訴人本人の供述によると、平成元年当時の「喫茶」による一日の売上金額は一万円前後に過ぎないというのであるが、そのことのみからは、控訴人の「酒類仕入金額」以外の仕入金額(売上原価)の不明である本件においては、被控訴人が本訴推計に使用した「平均酒類仕入率」及び「平均原価率」(但し、いずれも引用にかかる原判決説示の通り修正)が不当なものであるとは断定しがたいので、本訴推計が合理性を欠くものとは認められない。

二  よつて、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 中川臣朗 裁判官 緒賀恒雄 裁判官 永松健幹)

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